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音楽の楽しみというより興味というべきか

楽譜という障壁、その他のどうでもいい言い訳

 音楽の楽しみ方はいろいろだと思います。小生、楽器を弾きたい気持ちはあるのですが、実はこれは全くの苦手です。小学校の頃はピアノを習い、高校生ではギターに入れ込みと、それなりの楽器遍歴はありますが、上達しませんでした。この状況を分析してみると、結果的には楽譜の読みが遅いということに帰結します。楽器を弾く速度に楽譜の読みが付いてこない。もちろん、それなりの楽器遍歴があるので、楽譜は読めるし、演奏者のために楽譜の譜めくりであれば、10秒ぐらいで1ページが引き終わってしまう場合でも、遅滞なくめくれますが、それ以上にはなりません。また、カラオケは大の苦手でもあります。
 人生もそろそろ終わりが見えかけてくると、譜面が速く読めない理由は、結果的には、天性あるいは後天的な本人にはどうしようもない能力が欠落している気がします。この能力には遺伝は強く関係していないように思います。

 似たような、「天性あるいは後天的な本人にはどうしようもない能力」の一つに、左右の区別が非常に判別しづらいというのがあります。車の運転中に、次の交差点をどっちに曲がると聞かれても、指では即座に指し示せますが、それが右か左か言葉として発するのにしばらく時間がかかります。頭の中では、車は左側通行、箸、鉛筆を持つのはどっちの手と 、ありとあらゆる左右に関する知識を思い出して頭の中がフル回転して、その方向が左右のいずれかであるかを判断します。直観的に一致しないのです。そういう方はほかにもいるようです。ある著名な学者の方と車でご一緒させていただいたとき、「私、左右の区別が苦手なんです。」と言われて、自分もそうだと気が付きました。これも、毎日のように訓練しているにもかかわらず区別する速度が上がらないのですから、自分ではどうにもならない能力の欠如があるのだろうと思います。

 実は聴感もあまりよくないです。絶対音感がないのはもちろんです。中学の時、エンジン付き模型に夢中になり、その大きな音を耳に入れたため、聴力が低下しました。高校入学の健康診断では、あやうく難聴 と判断されそうになりました。さらに齢を重ね、先日、自作の装置で試した際は、13kHz以上は全く聞こえなかった。そうはいっても、音楽を聴くには支障がありません。なぜならば、ほぼ全て楽器の音階は、8kHzまでなので、音階を聞き分けられるという点では問題ないのです。80歳になると、さらに高音が聴こえなくなりますが、それでも8kHzぐらいまでといわれていますので、一応、耳が聞こえる限りは音楽はいつまでも楽しめるということにはなります。とはいっても、楽器の音には多くの倍音成分が含まれており、特にバイオリンなどは、音階も高く高次の倍音成分が含まれていますので、おそらく若い方と私が聴いている音は少し異なっている可能性があります。一般に、2次高調波は音を艶やかにするといわれていますので、バイオリンのE線の艶やかさを判断することはもうできていないのかもしれません。

オーディオマニア時代とその結果

 20代前半までは、オーディオ装置の設計製作にハマっていたこともあります。忠実な音の再生の方向でした。これで、アナログ電子回路の設計技術を磨いたようなところがあります。現在でもそうですが、多くの増幅回路は、+方向と−方向で信号の伝達速度が異なります。これが倍音(2次高調波)を生み、結果的にその差が大きいほど艶やかな音が出るようになります。これを解消する回路方式を考案し実際に製作してみると、非常に柔らかい、あたかもホールで生演奏を聴いているような音色が出てきます。静かなのに、ピアニッシモな音もはっきり聴こえてくる、そんな感じです。しかし、オーディオは、ここから先は途方もない費用が掛かります。その費用対効果を考えると、生演奏を聴きにコンサートホールに通ったほうがよほど幸せな気分になれます。

  
20代のとき、設計製作したパワーアンプ:シャーシは鉄製で銅をイオンプレーティングで付けています

 生の音には絶対にかなわないということがわかるようになって、さらに技術が進んでそこそこの製品が安価に入手できるようになってくると、作ることもなくなりました。結果的に、現在の環境は、結局パソコンとそこそこのアンプ付きスピーカー、携帯電話とノイズキャンセリングイヤフォンとなりました。ネットではネットラジオで際限なくクラシック音楽を流しています。このように手軽になると、今まで聴いたことがなかった曲も耳に入るようになり、また、演奏家による違いにも気が付くようになり、結果的に、CDを購入する機会も増えました。
以下に書くのはそんな話です。

スカルラッティのソナタ K298

Radio Swiss は、ネットでクラシック音楽を配信しています。

http://www.radioswissclassic.ch/de

この局は際立った特徴が二つあります。
1. 曲紹介でナレーションが付くこと。 言語は、ドイツ語、フランス語、イタリア語、英語から選べます。 ちなみに上のURLはドイツ語です。スイス人のフランス語は非常にゆっくりとしています。リスニング練習にちょうど良いかもしれません。
2. 交響曲なども全楽章演奏することが多いこと。ベートーベン第6番 田園なども、だいたい全楽章通して放送されます。

 スカルラッティのソナタが何曲か演奏されて、そのさわやかな印象に惹かれてしまいました。スカルラッティは、バッハと同じ時代の作曲家です。ソナタを 555 曲も書いています。そんな中で、面白かったのがソナタ K298 です。右手のトレモロ(同じキーの連打)が印象的です。 この放送では、ニコライ・ディミディエンコ氏の演奏でしたが、探した限りでは、2017年3月現在、この曲のピアノの演奏のCDは、ディミディエンコ氏の演奏を含め日本で入手不可です。アマゾンで探した限りでは、チェンバロ演奏による演奏のみが入手可能でした。とりあえず、Scott Ross 氏の演奏のを入手。JAN: 4943674017041 です。19曲入っています。構成がしっかりしており非常に聞きごたえがある曲が多いのですが、練習曲然として聴いていてあまり面白みを感じない曲もあります。好みの一曲を見つけるのに全曲聴くかと聞かれたら迷うところです。全曲演奏している演奏家は少ないでしょうから、同様なことを考えてのことかもしれません。
 チェンバロは、音の強弱がほとんどつけられないのと、倍音成分が多いので演奏そのものが非常に硬い感じになります。そんなわけで、個人的にはピアノ演奏が好みです。ピアノ演奏は、Youtubeにいくつか上がっています。

 オーソドックスなピアノによる演奏
https://www.youtube.com/watch?v=9GRXZyBS5Dc

  ジャクリーン ワイツさんは、なかなかの腕前だと思うのですがCDが出ていないのはどういうこと?たぶん、本人のものであると思いますが、Web があります。名字からドイツ人かと思ったのですが、アメリカ人のようです。少しタッチが弱いかな。このタッチだと大きなホールでは厳しい。

http://www.jacquelynweitz.com/

 ところで、上記の Youtube でトレモロがどのように演奏されるかが何とかわかりますでしょうか。薬指〜親指の順で連打します。そのため、音が等間隔にはならず、必ず4音ごとにリズムが付きます。もし、トレモロを等間隔で演奏するとどうなるかという演奏が次です。MIDI による電子音ですので、楽譜通り打ち込めばこういう悲惨なことになります。

https://www.youtube.com/watch?v=XiQmeF4RC-8

  これはもう音楽とはいえない。スカルラッティは、人間の不完全さが実は音楽にとって重要であることに気がついていたのかもしれません。また、こういう演奏もあります。正統派のソナタなので、いじりがいがあるのでしょう。

https://www.youtube.com/watch?v=K0FykUwQplo

トレモロの美しさというと、ギター曲の「アルハンブラ宮殿の思い出」を思い出します。
Youtube では、この演奏がなかなか良いように思います。演奏もさることながら、ギターが非常に良い。指のアップもあり、トレモロがよくわかると思います。この曲は親指だけでメロディーを弾いていて、小指は使っていないはずです。親指、薬指、中指、人差し指の順番の繰り返しです。

https://www.youtube.com/watch?v=zQnBstCaosE

これはテクニックがわかりやすくて良いのですが、ギターの神様の演奏を聴いてしまうと、さすが神様と思います。

https://www.youtube.com/watch?v=EQGBbLBShzk

この10弦のギターは、イエペス独特のものです。演奏を見ていただくわかるように、上の4弦は通常は弾かないのです。この張っただけの弦によって豊かな響きが出ると言われています。 同様な共鳴現象はバイオリンなどでも生じます。

G線上のアリア

 アウグスト・ウィルヘルミがバッハの管弦楽組曲3番の2曲目をニ長調からハ長調に移調し編曲したもの、というのが基本的な説明と思います。バッハの管弦楽組曲よりも、1音下がっていますので、少々渋い音色になります。名前の由来は、バイオリンのG線、すなわち、バイオリンの4本の弦の中で最も低い音の絃、これは演奏者から見ると一番左側に張ってある弦、だけで演奏できるので、こう呼ばれています。しかしながら、実は、この演奏はG線だけで弾くことは非常に珍しいのではないかと思います。管弦楽組曲では1音高いこともあり、まずG線で弾くことはありませんし、ソロのバイオリン演奏会でも管弦楽組曲と同じニ長調で演奏されることも多いようです。
 G線だけで弾くと、遠目にもはっきりとわかります。一番左の弦に弓を当てるため、腕が高く上がり、ひじがほぼ肩の高さと同じくなり、二の腕がほぼ水平になります。音としては、最も低い弦ですので、柔らかく渋めの音になります。音色の変化も緩やか。
 見るんだったら、ネーチャンの演奏が良いですね。Youtube ですと、Anastasiya Petryshak さんの演奏がなかなかよろしいのではないか、密かに気に入っています。

https://www.youtube.com/watch?v=CLk8OILr72U

 この渋い音、バイオリンはガルネリでしょうか。このネーチャン、えらく演奏が上手で、さらに Youtube をチェックしてみるとストラディバリウスを弾いている動画も出てきます。かなり有名人かと思わせるのですが、ネット上には日本語での解説が全くありません。日本で入手可能な CD も無いようです。英語の Wikipedia の説明では、1994年生まれのウクライナ人です。イタリアでの活動が多いみたい。
 私のような素人が、楽器の音色を聞き分けるのは、Youtube ぐらいの音質だとなかなか難しいです。 芸能人格付けチェックといったテレビの音質だと私には全く見分けがつきません。受信再生環境にも依存するでしょうが、テレビ音質で分かる人いるんでしょうかね。
 ホールでストラディバリウスの演奏を聴いたことがありますが、これはよくわかりました。バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータでは、響きの悪い新しくデッドなホールであったのですが、3音以上の和音でも前の音がしっかりと残っているのが聞き取れました。 演奏者が一流だったということもあります。ちなみにウィーンフィルのコンサートマスター、ライナー・キュッヒル氏でした。
 バッハの管弦楽組曲3番の2曲目ですが、ニ長調で弾くとこれだけ音が高くなります。著名なバイオリニストであるアンネ・ゾフィー・ムター氏の演奏です。上手だし、とてもつややかな音色です。 この方は、ストラディバリウスを2丁持っているので、このバイオリンもそうでしょうか。右手のひじを見て一目瞭然ですが、G線は使っていません。前の演奏と比べると、弦を変えるときの音色の差が気にな るかもしれません。

https://www.youtube.com/watch?v=sOOgqZdztGY

Tafelmusik ターフェルムジーク テーブルミュージック、祝宴のバックグランドミュージック

 ブランデンブルグ協奏曲、上記の管弦楽組曲、テレマンターフェルムジーク、、、
 好きな曲目を並べてみると、どうもこのジャンルの音楽が私の好みらしいです。気に入っている点は、聴いていて疲れないことでしょうか。構成は、単調なものもあれば、複雑な曲もあります。バッハなどは、基本的にポリフォニーで構成されているので複雑で何度聴いても新しい発見があります。

カラヤンとフルトベングラー

かなり有名な話ではあるのですが、小澤征爾の師匠であり、稀代の名指揮者であるカラヤンは、指揮中、ほとんど瞼を閉じています。
https://www.youtube.com/results?search_query=karajan
瞼を閉じているから、譜面に目を落とすこともしない。完全に譜面が頭の中に入っているのです。カラヤンの特徴は、何と言っても完全無欠、音が明瞭であることです。
フルトベングラーのほうは、混沌を表現するかのように、音が曖昧です。スカッと聴きやすいのはカラヤンですが、おそらくベートーベンが表現したかったのは、フルトベングラーの演奏なのかもしれません。

フルトベングラーの演奏で一番わかりやすいのは、ベートーベンの交響曲9番と思います。
https://www.youtube.com/watch?v=IgwRtknwI8k
最初のフォルティシモになるまでの過程が カラヤンのような時計が時を刻むような感じではなくて、混沌としています。この録音は、第二次世界大戦で、ベルリン空襲が日常的に繰り返されるようになった時代のベルリンでのライブです。

この録音は動画が存在しますが、Youtubeの規定により削除されました。 歴史的価値があるものであり、単に悪意があるという理由で削除されるのは疑問があります。
その映像で、 演奏の後に握手しているのは、ゲッペルスです。ただ、嬉しそうには握手していない。
実はこの録音は、録音日はヒトラーの誕生日の一日前、ヒトラー生誕祭前夜での演奏です。しかし、ヒトラーは客席にいなかったことがわかっています。こんなこともありフルトベングラーは親ナチと戦後批判され、しばらく指揮できない状態が続きます。
正直なところ、この動画を見ることが出来るとは思ってもみませんでした。

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