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天体撮影について、いくつかのテクニックに関するメモ書きです。

天体撮影を始めるなら、機材を揃える前におためし下さい。

 星野撮影ならば、一眼レフも必須ではありません。コンパクトデジカメと小型のカメラ三脚であっても撮影は可能です。これでいろいろなことがわかりますので、まずはおためし下さい。

 コンパクトカメラと三脚を使った撮影例

 カメラは、デジカメは必須ではありません。フィルムでも同様に撮影できます。バルブ撮影が出来れば、どんなカメラでも使用できます。
 道具を買う楽しみを否定しませんが、高価な道具を買う前に、手持ちの機材を使っていろいろ撮影してみて、自分がこの趣味に合っているかどうか確認されてみては如何でしょうか。どんな趣味にでも、楽しい面以外に、地道な努力が必要な部分があります。その努力自体を楽しめるようでないと、趣味としてなかなか長続きさせられないものです。特に、天体撮影は、技術、機材、体力(耐力)とハードルが高いです。

初心者には、カメラレンズによる撮影を勧めます。

 カメラレンズで撮影できる天体は、極めて多いのです。惑星と惑星状星雲以外は、ほとんどの天体を撮影できます。すなわち、目で見るのではなく撮影だけをしたいならば、ビクセンのガイドパックあるいは、ケンコーのスカイメモといった簡易赤道儀とカメラレンズの組合せで、最も安価でそこそこの画質の像が得られます。

 これに対し、望遠鏡を使った撮影は、焦点距離が長くなるので、赤道儀の精度も必要となり高価になります。例えば、1000mm を超える焦点距離では、小型あるいは中型の赤道儀では機械精度が足りません。まず精度と剛性が良い赤道儀、ガイド撮影が必須になります。
 つまり、天体撮影だけが目的ならば、300mm までのカメラレンズの使用が最も簡単で安価です。

 カメラレンズを使う天体撮影に必要な技術は、下記の4つです。

1. 赤道儀の極軸を合わせる。
2. カメラレンズのピントを星に合わせる。(無限遠にする)
3. カメラを天体に向ける。
4. シャッターを切る。

 簡単と思われるかも知れませんが、これらが意外と難しいのです。極軸が合わずに星が流れる、ピントが合わずにピンボケ画像になる、天体の位置がわからずカメラを向けられない。やったことがない方は、そんなばかな、自分なら出来ると思われるでしょうね。何事も体験です。お試し下さい。

 また、撮影中はつまらないです。真冬の満天の星空の下で、ひたすら寒さに耐えストップウオッチを見ながらシャッターを操作する時間を待つ、星見の楽しみとは無縁の単純労働作業の繰り返しです。
 そんな事情もありますので、初心者には撮影はやめろと申し上げておりますが、やってみたければ、まずカメラレンズをお勧めします。これで、きちんと撮影できるようでないと、望遠鏡で撮影するのは無理です。

ピント

ピント合わせについて その1
  ピントアダプターを使う方法もあると思いますが、シリウスなど明るい星を入れてもピントは出せます。これでピントを固定し、撮りたい方向にレンズを向けて、シャッターを押します。輝星では、ピントがきっちり合うと、ちょうどシーイングが悪い時の星の瞬きのようにキラキラと色を変えながら輝くポイントがあります。ここがジャスピンです。カメラレンズでも標準、望遠の場合は、この方法が使えます。ズームの場合は、なるべく望遠側の方が合わせ易いです。広角単焦点のカメラレンズの場合は、星が小さすぎて、この方法は使えません。
 なお、オートフォーカスのカメラレンズは、ピントリングを無限大側に回しきったところでは無限遠にピントが合いません。少し戻ったところになります。これは、フォーカスを合わせるときのアルゴリズムによるものです。すなわち、カメラ内のマイコンチップは、フォーカスリングを回していき、ピンぼけ→ピントが合う→ピンぼけという、3つの状態から、ピント位置を探すためです。つまり、無限遠であってもピントが合う位置の前後にフォーカスリングを回す余裕が必要になります。マニュアルレンズの場合は、回しきったところになります。
 この方法では合わせにくい場合には、単眼鏡、双眼鏡でファインダーを覗く方法がよいです。但し、上記と同様に相当明るい星でないと、像が見えにくいです。単眼鏡、双眼鏡は、明視の距離、すなわち、25〜30cmぐらいの短距離でピントが合う機種が必要です。私は、ビクセンの 4x12 単眼鏡を使っています。
 拡大すると、マットに写っている星像が、”丸”ではない事がわかります。

ピント合わせについて その2
 2004年、石川町SLFで、光映社製ロンキー式ピントアダプターを購入しました。これはピントの山が非常にわかりやすいです。上記の方法ですと、ピントの山が非常にシビアな気がしたのですが、これですと、意外に広く感じます。だからといって、ピントが甘いかというと、そうではないし、再現性も非常に良好です。欠点は、少し見えにくいこと、カメラと取り替えると鏡筒バランスが崩れて G11 のフリーストップを緩くしている状態では使いにくい等ありますが、メリットに比べれば、大したことではないです。

ピントの確認
 撮影したら、液晶画面で画像を拡大し、流れ、ピントをチェック、結果をセッティングに反映させます。

赤道儀

赤道儀のガタなど
 赤道儀のギヤのかみ合いの関係でガタがある場合があります。この場合は、望遠鏡を天体に向けたら、ギヤの遊びが吸収されるのを1分ほど待ちます。このガタは、SP-DX では気になりましたが、G11 ではまったく感じません。赤道儀あるいは、調整によって大きな差があります。

赤道儀の追尾精度について
 例えば、EOS Kiss Digital を FL70S に取り付けて、直焦点撮影した場合に、星が1ドットずれる角度を計算すると、画素の大きさを約7μm(0.007mm)、焦点距離を 560mm とすれば、

tan-1(0.007/560)=7x10-4°= 2.5 秒角

 ところが、持ち運び可能な赤道儀のピリオディックモーションは、±5秒角あたりが限界です。故に、ガイドしない条件では、ピリオディックモーションはなるべく小さい赤道儀を選ぶしかないという結論になります。

赤道儀の設置場所について
 アスファルト、コンクリートなど硬いほうが望ましいです。草地ですと、何かの拍子に沈み込み、像が流れることがあります。また、周囲を歩くことで振動を拾うこともあります。

画像処理について

 光害地での長時間露出では、画像のバックグラウンドが、階調の 2/3 ぐらいまで上がってくる場合があります。埼玉県民の森は、5 分露出で、バックグラウンドが全階調数の約半分になります。こうした場合、階調数を確保し、画像のざらつきを抑えるために、コンポジットが必要になります。2〜4枚でも、かなり改善されますが、10 枚ぐらい必要との意見も頂きます。 信号理論では、ノイズ低減は、一般的にコンポジットの枚数の平方根に比例するとされています。すなわち、コンポジット枚数が 4 枚であれば、ノイズレベルは 1/2 に、コンポジット枚数が 16 枚であれば、1/4 ないなります。ノイズの数値低減と画像の見栄えは、必ずしも比例するわけではありませんので、コンポジット枚数が何枚必要かは、最終的に見た目で判断することになります。

ノイズについて

 CRW_1224_RT16.jpg (269980 バイト)
ノイズ画像 (30℃ 500sec) レベル調整してノイズを強調

 上の画像は、レンズキャップをしたままカメラを暗所に置き、シャッターを500秒開けたときの画像です。撮影後、画像処理により、コントラストを極端にアップしています。
 バックグラウンドが黒、長時間露光、さらにレベルを切りつめてコントラストをアップさせるという特殊な撮影環境では、このようなノイズが目立つようになります。右端には、赤い広がりが2つ、左端下側は、点状のノイズが目立ちます。右端の赤い広がりは、実際の撮影では、さらに広がっているように感じます。撮影対象は、これらのノイズを避けるようにして構図を決定します。さらにその上で、トリミングによって、これらのノイズ領域をカットします。
 天文ガイド2004年11月号には、ダークフレームをとり、差分でこれらのノイズを除去する方法が紹介されていました。ただし、ランダムノイズは除去できません。また、ダークフレーム撮影条件と天体の撮影条件が異なると、かえって画像のノイズを増やす結果になること、ノイズは時間と温度に極めて敏感なことから、長時間にわたる撮影では、なんどかダークフレームを取り直す必要があると思われます。

ダークフレーム差分の効果

 下図のように、かなりの効果が有ることがわかります。但し、万能というわけではなく、左下のゴマ粒状のノイズは、引いたところは黒く抜けますので、結果的に赤い散光星雲に黒い点が出ます。デジカメの場合、原理的に撮影時間に比例してノイズが増えますので、ノイズを減らすために、撮影時間を短くすることは、かなり優先順位が高そうです。結果的には、なるべく明るいレンズを使ったほうが良いということです。

CRW_1360_JFRs.jpg (327628 バイト)
ダークフレームを引かずにレベル調整

CRW_1360_JFRds.jpg (338492 バイト)
ダークフレームを引いて、強めにレベル調整

ダークフレームを引いたときの問題

 ダークフレームを引くと、撮像センサーの輝点ノイズは、黒い点で残ります。下の図は、左下のノイズの多い部分で、ダークフレーム差分後の像です。これを見ると、カメラ内部の画像処理で、ノイズを拡散させているのかなと想像します。

dark_def.jpg (30089 バイト)

ダークフレーム差分後の NeatImage の効果

 NeatImage は、星雲のような淡い階調の対象について、ソフト処理を行うように作用するフィルターです。NeatImage を使うと、粒状感を消すことが出来ますので、さらにレベルを詰めることが出来ます。結果的にコントラストを上げることが出来て、下図のように劇的な変化を得られます。

CRW_1360_JFRdfs_filtered.jpg (271618 バイト)
さらに NeatImage を使い、粒状感を消し、レベルを調整

 

星像

CRW_1278_RT161.jpg (59458 バイト)
AD-VIX FL70S の星像

 一等星(たしか、ベガ)を強拡大した画像です。6本の光条は、対物レンズに挟まれている錫箔による回折です。錫箔は、小さいのに意外に大きな影響があることがわかります。

光害フィルターの効果

filter001_1.jpg (17383 バイト)
LPS-P2 フィルターの効果 (左:未使用 右::使用、ISO800 相当、自宅前で 300sec 露光)

filter001_2.jpg (24923 バイト) 光害フィルターである IDAS LPS-P2 を使った場合のバックグラウンドの低減について、結果を書いておきます。上の画像は、自宅前で M42 オリオン大星雲 を露光時間 300sec で撮影した場合の結果です。左が未使用、右が使用した画像で、背景の白さに大きな差があることがわかります。左図は、その時のヒストグラムで、未使用の場合、バックグランドが全階調の 210/255 に達しているのに対し、使用するとおよそ 150/255 と低下します。大まかな話として、このダークのレベルは、露光時間に比例しますので、光害フィルターがない状態まで許容するとすれば、露光時間を、400〜450sec ぐらいまで延ばせることがわかります。
 意外に効果が低いと思われるかもしれませんが、市街地の近郊では、こんなものなのでしょう。光害フィルターは、高出力の光源として使われる水銀ランプから出る輝線スペクトルをカットするのが目的ですので、白熱電球、蛍光灯の蛍光物質からの発光(注1)、ハロゲンランプ、HID、LED などからの光はカットできません。ですから、近くにどういう光源があるかによって、その効果の度合いは変化します。

注1 蛍光灯の光について
 蛍光灯は内部に水銀ランプがあり、この輝線スペクトルを蛍光物質にあてて発光させています。そのため、その発光には、水銀ランプの輝線スペクトルと蛍光物質からの発光の両方が含まれています。光害フィルターでは、このうち、水銀の輝線スペクトルは減衰させることが可能ですが、蛍光物質からのブロードな発光のほとんどはカットできません。

 

 

 

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